電気炉用電磁攪拌装置 (EAF-EMS) と炉底部スカルの課題解決

電気炉炉底部へのスカル形成は、生産性や製造過程の効率に影響を与えるため、世界中のステンレス鋼メーカにとって課題となっています。しかし、ABBの上級冶金学者のLidong Tengは、「炉底部へのスカル形成という課題は、ArcSave®によって解決されている」と説明しています。

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スカル形成はステンレス鋼や高合金鋼の製造における一般的な課題です。未溶解スクラップとフェロクロム(FeCr)から形成されたスカルは、電気炉の容量を減らす、タップ重量の精度や歩留まりを低下させる、生産性を低下させるなど数多くの問題を引き起こします。

現代の生産性の高い製鉄所において、小さな非効率プロセスが大きな悪影響を及ぼし最終的に大きな収益低下につながる可能性があります。したがって、電気炉内のスカル形成を防ぐことは、製鉄所のパフォーマンスを最適化する上で非常に重要な要素となります。

ホットスポットとコールドスポットをなくし溶鋼への熱伝達と質量を改善することで効率的にスカル形成の抑制を実現できます。その結果、スカルを形成する固形残留物を残すことなくスクラップやFeCrの溶解速度を高めます。

電磁攪拌(EMS)は、炉内の溶融物を正確に制御することでスカルを発生させることなく溶解速度を高めます。また、EMSはエネルギー消費、プロセス安定化、メンテナンスにおいてもメリットをもたらします。

長年の実績により、明るい未来を実現します

ABBにおいて電磁攪拌装置の歴史は80年以上あり、電気炉用電磁攪拌装置(EAF-EMS)の特許を最初に取得しました。

現在ABBの電磁攪拌装置技術は世界に1,870件以上の導入事例があり、153件以上のEAF-EMSが含まれています。炉底シェルの下に非接触で設置され、移動磁界を発生させて電気炉内溶鋼に対流を生成します。この電磁場は炉内全体に浸透し溶鋼を完全に混合させます。

最新のEAF-EMS(ArcSave®)は高出力炉用に設計された強力な攪拌力と電気炉のプロセスに合わせて攪拌を調整できる自動制御を備えた設備です。

2014年に米国バージニア州のSteel Dynamics Roanoke工場で炭素鋼生産用の電気炉に最初に設置され、現在では多くのステンレス鋼および特殊鋼の製鉄工場に適用されています。

  • スウェーデン:Outokumpu Stainless AB (2014年)

  • 韓国:POSCO (2018年)

  • 韓国:SeAH Changwon Integrated Special Steel (2018年)

  • オーストリア:Böhler Edelstahl (2020年)

  • 日本:日本冶金 (2021年)

ArcSaveは、炉の底部シェルの下に非接触で設置され、炉のシェルを通過する移動電磁場を生成し、電気炉内の溶融物に対流を生成します。

Outokumpu Stainless社(スウェーデン)における成功事例

スウェーデンのアベスタにあるOutokumpu Stainlessは、ステンレス鋼製造において長い歴史を持つ大手鉄鋼メーカです。1930年に、Outokumpu Stainlessで2相ステンレス鋼が発明され、現在こちらの拠点はOutokumpuのグローバルR&Dの本拠地となっています。

ArcSaveは、90トン電気炉において炉底のスカル形成を抑制するとともに電源投入時間を短縮、AODプロセスの改善を目的とし、2014年に導入されました。

電気炉は、110MVA変圧器と酸素、窒素、フェロシリコン、炭素注入用の4つのランスマニピュレーター、スクラップ溶解用の電気と3つの酸素バーナーを備え、クロム含有量の多い特殊鋼を製造します。これらの鋼を製造するために、大量のフェロクロム合金が添加され、その結果、炉底部にスカルが形成されます。同社は、炉底ガス攪拌を試みましたが、スカルとスラグの硬さによって失敗に終わりました。

ABB ArcSaveの導入後、スクラップとフェロクロムの溶融が改善、スカル問題も解決され、鋼の歩留まり向上による正確なタップ重量と温度制御が可能となりました。これらのさまざまな効果によって、よりスムーズなAOD操業が可能になりました。タップ温度は20~30℃下げることに成功し、タップ温度の的中率は30%から100%に大幅に上昇しました。タップ重量の的中率も69%から93%に向上しました。ABB ArcSave導入によって、エネルギー消費量も3~4%減少、電極消費量は8~10%減少、電源投入時間は4~5%減少しました。

SeAH社(韓国)でモンスター級のスカルに挑戦

SeAHは、韓国で唯一のステンレス鋼パイプとチューブを製造している鉄鋼メーカです。SeAHの70トン電気炉は、厚さ1,000mmにもなるスカルが問題となっていました。SeAH の電気炉には、72MVA変圧器と酸素、アルミドロス、炭素を注入する4つのランスマニピュレーターが備えられています。また、3つの酸素バーナーは、90%のスクラップと10%のフェロアロイを溶かすために設置されています。

Outokumpu Stainlessと同様に、SeAHは炉底ガス攪拌では効果がないことが判明し、耐火物用のドリルでスカルを切削し、炉からクレーンで取り出す必要がありました。ABB ArcSaveの攪拌による炉内温度均質化の結果、炉底部のスカル形成は200mm未満に減少しました。スカルの減少は、操業において以下のような多くの利点をもたらしました。

  • スクラップの投入を簡便化
  • 炉内溶鋼レベルの制御精度向上
  • タップ重量の的中率向上
  • スクラップと合金鉄の歩留まり向上
  • 炉内耐火物のメンテナンス頻度を減少

ArcSaveによって生成された電磁攪拌により、炉の溶融物全体を完全かつ正確に制御、攪拌できます。

SeAHにおいても3~4%のエネルギー消費量低減し、電源投入時間も4~5%減少しました。また、最も魅力的な効果としては、大きなスクラップの塊と合金鉄(最大4トン)の溶解能力が向上したことによって、スクラップの処理コストが70~80%削減できたことです。

ABB EAF-EMSを設置する前は、SeAHの電気炉はスクラップを完全に溶解させるために、1チャージの投入で少量のスクラップしか処理できていませんでした。

ArcSaveによりタップ重量ヒット率が24%増加

まとめ

Outokumpu StainlessとSeAHで示されたように、EMSはステンレス鋼の生産において大きな課題であるスカルの影響を抑制するだけでなく、プロセス全体で重要な要素となります。EAF-EMSは生産性を5~7%向上、エネルギー消費量を3~5%削減、プロセスの安定化と再現性の向上、合金鉄や石灰、電極、その他プロセスで使用されるコストを削減などの効果を発揮します。

鉄鋼業界はコスト競争、競合の増加や環境問題まで多くの困難な課題に直面しています。ABB ArcSaveがもたらすメリットにより、成功するためにテクノロジーを採用する意欲と先見性を備えた鉄鋼メーカに強力な競争力をもたらします。 この点においては、これまでのABB ArcSave導入者の大半となる専門家とステンレス鋼メーカがリードしています。

 

この記事は、2020年9月号のStainless Steel Worldに掲載されました。

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